4ケタに決まった経緯
ちょっと検証してみましょう。
キャッシュディスペンサー (CD=現金自動支払機)の発祥は昭和必年にまで遡ります。
イギリスのバークレイズバンクが6店舗で導入したのを皮切りに、各銀行で実用化の機運が高まります。
当時はちょうど週休2日制の導入が真剣に考えられていたので、「顧客の利便性を下げないための切り札」としてCDはうってつけだったのです。
そして、このCD 発祥の当初から4ケタの暗証番号が使われていたのでした。
国内では住友銀行(現・三井住友銀行) が先鞭をつけて、昭和44年にオフラインCDを導入。
やはり4ケタの暗証番号が使われています(一号機はテンキーではなくダイヤル式)。
オフラインCDというのは、CD 端末が銀行の中央コンピュータと接続されずに単独で動く形態を言います。
システムとしては単純で運用しやすいのですが、預け入れをしている支店でしか使えないので、まもなくオンラインCD (中央コンピュータと接続されており、どの店舗でも同じキャッシュカードが使える) への移行が進みました。
また、昭和52年になると、振込などもできるAT Mが登場してきます。
そうすると、「違う銀行からでもおろしたいぞ」というニーズが生まれてきました。
それまでのオフラインCD、オンラインCDは、各銀行がCD メーカの提案するCD 機を購入する、あるいは共同で開発する、という形で運用されていたので、キャッシュカードに記録されているデータはまちまちでした。
これを統一しないと銀行間でのオンラインCD取引はできないので、各銀行が話し合ってキャッシュカードに記録する磁気データの共通フォーマットを作りました。
これが昭和47年のことです。
この共通フォーマットは現在でも使われているJIS-Ⅱ型というものです。
昭和47年というのは、世界標準の共通フォーマットが作られる前ですので、「ずいぶん先見の明があったなあ」と思います。
もっとも、CD機設置で独走する三菱銀行(現・東京三菱銀行) に待ったをかけたい各銀行の謀略だ、という噂もありましたが(三菱独自のCD機設置が進んでいたので、共通フォーマット用に作り直すとしたら、一番損をするのが三菱銀行になる)。
ちょっと脱線しますが、高度成長期以降の日本には資金も技術もあったので、「世界標準が作られる前に独自の技術で作り始める」ということが、他の技術分野でもありました。
チャレンジングで素晴らしいと思います。
で、せっかく先行したのだから、それをそのまま「世界標準」にするようにロビー活動すればいいのですが(お手製の技術が世界標準になれば莫大な利益が上げられます) 、日本は異様にこのロビー活動が下手なので、たいてい違う形で世界標準規格が定められます。
そうすると「世界の趨勢に合わせなくちゃな」ということで、せっかく先行投資していた機材を作り直すことになります。
一方で、後発の国々は世界標準が決まった段階で参入してくるので、作り直す手間もかかりませんし、無駄な投資もありません。
「日本が先行したはずなのに、いつのまにか列国の後塵を拝している」のはこうしたわけがあります。
話を元に戻しましょう。
この「共通フォーマット」では、1、キャッシュカードの磁気ストライプには、72ケタの文字が入る。
2、ここでいう「文字」には記号や数字、アルファベットが含まれる。
3、8ケタ目から11ケタ目に銀行番号を入れよう。
4、12ケタ目から15ケタ目は支店番号だ。
といったことが定められています。
で、暗証番号については「4ケタ目から7ケタ目に入れよう」と決められました。
このときに「暗証番号4ケタ」が全国的に定まった、と一言えます(その後、直接キャッシュカードに暗証番号を入れちゃ危険だよ、ということになって、昭和63年からは入れなくなりました。
)。
じゃあ、この「共通フォーマット」を作った人が悪いのか?というとそうでもありません。
共通フォーマットは、すでにCD機の設置が進んだ状態で議論されたので、既存のCDシステムの影響を強く受けています。
既存CD機は、研究が先行していたIBMなどに雛形を求めることができるので、「やっぱりお得意のアメリカに右へならえか?」という線が濃厚です。